見るだけでワクワクする――
そんな「秘密の隠れ家」を求めて
熱海の地をどこよりも愛しているクライアントが、もとの別荘(自然郷)を西熱海に移そうと考えたことが依頼をいただいたきっかけでした。西熱海別荘地には永住を希望する方が多く住み、ガスや下水も備わり、急な坂も少ない良好な居住地であるため、老後の永住を意識した家にしたいとのこと。さらに、趣味の陶芸を楽しむだけではなくギャラリーとすることを前提とした計画となりました。
クライアントの要望
最初に聞いた要望は「面白い家をつくって欲しい」ということでした。もちろんそれ以外にも要望はありましたが、このクライアントは細かな口を挟むことなく建築家を信頼して任せてくれました。専門家を信じて任せる、これがいい家づくりのコツだと思います。僕自身、とてもいい仕事ができたと思っています。
- ・舟形の家にしたい
- ・陶芸を楽しめる工房をつくりたい
- ・陶芸をするだけでなく、ギャラリーとしても使えるようにしたい
- ・将来的に永住することを考えてバリアフリーにしたい
- ・海や熱海の花火が見えるようにして欲しい etc……
米村からの提案
上記の要望を精査して、今回の家づくりの中心となるコンセプトを提案しました。
コンセプト1.舟をイメージした形態をデザインのベースとする
コンセプト2.1階は玄関と陶芸工房のみとし、生活空間は2階に配置する
コンセプト3.バリアフリーを意識した設計にする
コンセプト4.生活空間から海が見えるようにする
クライアントの想いから多くのプロが動いた
こんな特殊なデザインの家は、
普通は予算どおりになんか建てられません
クライアントから最初に提示された予算は3,000万円。しかし、「c」を追求するとなると、僕としても予想がつきません。概算見積もりをした施工会社からは4,000万円の見積もり金額がでました。予算より1,000万円も高い金額が提示されたら、普通はひるみます。でも、クライアントからは「気に入ったデザインなので創意工夫で何とかして実現して欲しい」という言葉が。
それを聞いた工務店の社長(現場監督)が「よし、やってやろう!」という前向きな気持ちで取り組んでくれて、数々の議論の結果、1000万円のコストダウンが実現しました。クライアント、建築家、施工者の三者の全員が一丸となってプロジェクトの実現に取り組みました。
「三者が同じ方向を向き、目標実現に向かう」成功する家づくりの基本です。
近所からの嬉しい評価
完成が近くなると、クライアントの建物に対する満足度はどんどん高まってきました。嬉しいことに、この家に興味を持った近所の方が何人も声をかけてくれたそうです。そこで完成間近にクライアントが言ってくれたのが、こんな一言でした。
「もう少し予算を出すから、やり残しがあったらその部分に使って欲しい」
そこで僕は、予算の問題から妥協せざるを得なかった多くの箇所の中から玄関部分をクオリティーアップさせました。クライアントの想いから多くのプロが動いて、ひとつの「作品」をつくりあげたという感じです。
大切なのは現場監督と現場で働く職人の気持ちです
現場サイドの気持ちが前向きでなければ、建築家の設計する特殊なデザインの家は予算オーバーします。この家は、施工する人たちの前向きな熱意があってこそ完成したものだと思います。もちろん、現場サイドを前向きにするのはクライアントの熱意であり、建築家の思いでありコミュニケーションです。こうした絶妙のバランスによってよい作品、良い建築が完成します。
クライアントからのメッセージ
バリアフリーを意識して2階に全ての生活空間を設計すると提案いただいた時や模型を見せていただいた時は衝撃的でした。2階から海を眺められますし、希望以上のものをつくってもらったと感謝しています。本当に暮らしやすいです。以前も熱海に別荘を持っていましたが、建築としての魅力は無かっただけに、この別荘を建ててからは、金曜日には仕事を早めに切り上げて毎週ここに通うスケジュールになっています。別荘に行くことがこんなに楽しみになるとは思いませんでした。
趣味の陶芸も楽しめていますし、将来的に陶芸に関わる仕事をしたいという夢に一歩近づけたと思います。この舟状の形を近所の人たちも気に入って、受け入れてくれたのも嬉しかったですね。建築の持つ力だと思います。これからの人生をもっと楽しむための拠点ができました。ありがとうございます。